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活動報告・支援事例

(2023.8.30)第5回企業経営者とスタートアップとの懇談会

  •  神戸商工会議所とアンカー神戸は、神戸での起業の促進とスタートアップの育成を支援するため、起業家や起業を志す学生などを対象に、地元の有力経営者が自身の体験談や大切にしている思いなどについて語り合う懇談会を開催している。
     第5回目の懇談会では、川崎重工業㈱代表取締役社長の橋本康彦氏が登壇。「信頼のこたえを~ハシモトの挑戦の軌跡~」と題して、生い立ちから、川崎重工業入社のきっかけ、新規事業の立ち上げに関する数々の苦労や成功体験を紹介した。
     神戸生まれの橋本氏は、幼少期からプラモデルや夏休みの工作など、ものづくりに熱中。特に鉄腕アトムや鉄人28号に影響を受け、「将来はロボットを作りたい」と夢を膨らませていたという。また、自身のパーソナリティは「ハンディを持って生まれた兄の存在が影響している」と説明。川崎重工業㈱に入社したきっかけについて、幼少期からのロボットへの憧れや、ハンディを持った人の助けになりたいという思いがあったことを紹介した。入社後には、社内では比較的小さな組織だったロボット事業部に配属され、「若いうちからリスクのある仕事も任されたが、当時の経験が今の財産になっている」と振り返った。
     1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は、橋本氏に大きな衝撃を与えたという。橋本氏は、長田や鷹取で復興支援に携わるなかで、ボランティアの美大生らとともに街に絵を描くプロジェクトを立ち上げ、人々の心に音楽や芸術を届ける活動も行った。震災は会社にも大きなダメージを与えた。新事業を立ち上げる必要性に迫られるなか、半導体産業に将来性を感じた橋本氏は、半導体用ロボットの事業化を会社に提案。当初、周りからの反対があったものの、橋本氏が情熱を持って説得し続けたことで事業化が実現した。
     その後は事業拡大のため、当時、半導体製造装置の55%が生産されていたシリコンバレーに赴任。取引を依頼するも何度も断られたが、短期間で製品を納入することで取引先との信頼関係を構築し、事業を軌道に乗せていったという。橋本氏は「大変なことも多かったが、社員や家族、友人に支えられながら成し遂げることができた」と当時を振り返った。
    懇談会の後半には、川崎重工業㈱とシスメックス㈱が共同出資して設立した㈱メディカロイドの「hinotori™」の開発経緯を紹介。2012年、橋本氏とシスメックス㈱の浅野氏(現神戸商工会議所副会頭)が検討会を立ち上げ、2013年に㈱メディカロイドを設立。2020年に初の国産手術支援ロボット「hinotori™」が完成した。現在は全国で40台以上が稼働し、2000件以上の手術が行われている。
     橋本氏は、数々の新規事業に携わってきた過去を振り返り、「今後は後輩を育てる立場として、新しいことにチャレンジする人を応援していきたい」と語った。
     最後に、起業家らに向けて、「自身が前に進んでこられたのは、サポートしてくれる人と出会ってきたから。多くの人を巻き込んで、夢を共有しながら実現に向けて歩んでほしい」とアドバイスした。その後、参加者と活発に質疑応答が行われた。「社会課題を解決するような製品を作ろうとしているが、会社としては利益に結び付きにくく実行が難しい」との質問に対し、橋本氏は「開発と同時に、その技術・サービスが将来、人の役に立つものであること、そうした技術を支援していくことが次の社会にとって重要であることを訴え、一つの社会ムーブメントにしていくことが大切」とアドバイスした。

    グラフィックレコーディング:©2023 川崎重工業㈱ 原 純哉 氏